2025年春、かつて東北新幹線などで活躍していたE2系J66編成が、北海道・函館西港で陸上げされました。この光景は鉄道ファンの間で話題となり、SNSや各種メディアで広く取り上げられています。
どうやらこの車両、青函トンネル明かり区間の高速化走行試験車両として使用される見込みだというのです。
「なぜ引退したはずの車両が?」「なぜJ66編成なのか?」 その背景にあるデザイン的な意図、鉄道運営上の戦略まで、深掘りしてみます。
Contents
なぜE2系が選ばれたのか?
- E2系とは?
- J66編成とは?
- JR北海道が抱える青函トンネルの問題
- E2系J66編成が選ばれた理由
ここでは、そもそもの車両の背景と、青函トンネルの課題、E2系が選ばれた理由について1つずつ解説していきます。
E2系とは?
E2系は、1997年に登場した新幹線車両で、主に東北新幹線・上越新幹線・北陸新幹線などで活躍してきました。最高時速275km、10両編成で運用されてきた車両で、E5系などの後継車両の登場とともに徐々に数を減らしてきました。
2025年4月6日現在、E2系は6編成60両が残存。いずれも2010年2月以降に製造された比較的新しい編成となっています。
J66編成とは?
今回陸上げされたJ66編成は、2005年4月6日落成。ちょうど2025年4月6日で製造から20年が経過した車両です。2024年5月30日をもって廃車となり、その後は新潟新幹線車両センターにて留置されていました。
特筆すべきはその外観。J66編成には国鉄時代の200系カラーを再現した復刻塗装が施されており、この塗装が施されたのはJ66編成のみです。クリームとグリーンの懐かしさを感じさせる落ち着いた配色が大きな人気を博しました。
鉄道車両では引退間際に塗装変更が行われることがあります。通常、その車両のデビュー当時のオリジナル塗装に塗られることが多いですが、E2系は長らくオリジナルカラーで活躍していたため、200系カラーの特別塗装が施されました。特別塗装が施されたのは、結局このJ66編成だけでした。
鉄道コムやX(旧Twitter)では「最後に撮れてよかった」「復刻カラーのJ66編成が美しすぎる」といった投稿が多数見られ、J66編成は引退間際に広く注目を集めた編成でした。
JR北海道が抱える青函トンネルの問題
青函トンネル区間は、新幹線と貨物列車が共用する特殊な区間であり、安全性確保のためにさまざまな制約が設けられています。
とくに課題となっているのが、「明かり区間」と呼ばれる青函トンネル前後の区間。ここでは、新幹線と貨物列車がすれ違う際の安全を確保するために、新幹線側が時速140kmに速度を落とす必要があるのです。
ちなみに、青函トンネル内自体は制限速度160km。それに対して明かり区間はさらに速度を落とさなければならないということで、札幌延伸後の所要時間短縮にとって大きな障壁となっています。
この制限を解消し、より高速での運行を可能にするための検証として、明かり区間の高速化試験が企画されており、そこにE2系J66編成が登板する見込みです。
その詳細については、JR北海道の以下の資料がとても参考になります: https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/shinkansen/specificity.html
E2系J66編成が選ばれた理由
今回、E2系J66編成が選ばれた理由は以下の3点が大きいと考えられます。
- 車両の新製には多大なコストがかかる
- 時間的余裕がない
- E2系は性能的にも過去に試験対象として挙がっていた
新幹線の試験車両として非常に有名なものにαX(アルファエックス)があります。しかし、新しく試験用の車両を製造する場合には、設計・試作・検証まで含めて非常に大きなコストがかかります。
今回は「明かり区間」という限定された区間での試験が目的であることから、これだけのために新規車両を製造するのは現実的ではありませんでした。
今回の契約は、JR東日本と鉄道・運輸機構(JRTT)との間で随意契約という形で行われました。通常であれば、複数の案を競合させるコンペ形式が取られることもありますが、それでは時間がかかってしまいます。
JR東日本とJR北海道の間には、以前から技術提供などの連携があり、北海道新幹線の開業時にも支援が行われていました。そのような信頼関係もあって、E2系の受け渡しも非常にスムーズに進んだと考えられます。
引用:「2016年の国土交通省の資料では、青函トンネル内の高速化試験用車両としてE2系を用いる案が検討されていたことが確認されている」
このことから、E2系が技術的・仕様的に試験対象として十分に実績があることがわかります。
✅ J66編成は直近まで営業運転に就いていたため、整備状態も良好。再利用するには理想的な状態でした。
性能的にも、過去に青函トンネル高速化試験でE2系の使用が検討されていた経緯があり、合理的な選定だったとも言えます。
もし復刻塗装の車両をあえて選んでいたとしたら?
ここからは少し妄想も交えつつ、見た目や印象の“デザイン戦略”としての視点で読み解いてみます。
復刻塗装のJ66編成は話題に上がりやすい
復刻塗装のJ66編成を使用することで、鉄道ファンの注目を一気に集めることができます。
- 視覚的に印象が強い
- SNSでの拡散力がある
- 「えっ?J66編成、まだ生きてたの!?」という意外性がある
これはもはや、広告を打たなくても話題になる「広告しない広告」として自然に注目を集める現象と言ってもいいかもしれません。
今回のJ66編成の復刻塗装が試験車両として再び表舞台に現れた様子を見て、ふと思い出したのが、過去に日本のデザイン界で話題を呼んだあるプロモーションの事例でした。
それが、クリエイティブディレクター・佐藤可士和さんによる、SMAPのCDプロモーションです。
佐藤可士和のデザイン戦略との共通点
佐藤可士和さんは、誰もが日常で目にしているブランドを数多く手がけてきた方です。
例えば、下記のブランドやロゴデザインを手掛けています。
- ユニクロ
- セブンイレブン
- 今治タオル
- 楽天グループ
- カップヌードルミュージアム
上記の通り、言うまでもなく日本を代表する存在です。
その中でも特に印象的だったのが、2000年10月に発売された、SMAPの13枚目のオリジナルアルバム『S map〜SMAP 014』のプロモーション。
このキャンペーンでは、与えられた広告費は決して多くありませんでした。
そんな中で、佐藤さんが選んだのは、渋谷の街全体を“ジャック”するような戦略。
下記の場所にアルバムジャケットで使われている三原色を溢れさせました。
- 駅ポスター
- ビルボード
- ラッピングバス
- 工事中の仮囲い
- 街灯のタペストリー
ジャケットに使われた赤・青・黄の三原色を街中にあふれさせたのです。
あくまで広告は出さず、でも視界に入ってくる。
見た人が「なんだこれは?」と感じ、自然と話題にする流れをつくり出しました。
結果として、テレビやワイドショーがこの現象を取り上げました。CMを一切打たなかったにもかかわらず、CM以上の広告効果を生んだと言われています。
この戦略と、今回のJ66編成の選定。どこか似た空気を感じませんか?
たとえば、E2系の復刻塗装という視覚的なインパクト。鉄道ファンなら一目で「おっ」と目を引かれる存在感。そして、それが試験車両として再登場したという意外性。
あえて大々的な宣伝をせずとも、ファンの間で自然と話題になり、SNSなどを通じて広がっていく——その構造は、まさに“広告しない広告”にも近いものだと感じます。
E2系J66編成の復刻塗装が、青函トンネル明かり区間の試験という裏方的な役割を担うだけでなく、北海道新幹線そのものに対する関心や期待を高める“視覚的なアイコン”として機能しているとしたら……
これを戦略としてやっているとすれば、JR北海道はなかなかの策士かもしれません。
まとめ&今後の見どころ
ここまでの内容を整理しつつ、これから注目したい点をリストアップしておきます。
- 試験に耐えうる性能がある
- 状態が良く再利用しやすい
- 過去に試験車両としての計画があった実績
- SNSやメディアで自然と話題になる
- 鉄道ファンの心を掴み、注目度が上がる
- 3・4号車がなぜ抜かれたのか?
- 実際にいつ、どこで試験が行われるのか?
- このカラーリングが一般の目に触れる機会はあるのか?
- 試験走行はいつまで行われるのか?
- 試験結果が北海道新幹線の将来にどう影響するのか?
引退したと思われていたE2系J66編成が、まさかの「第2の人生」へ。しかも北海道での試験走行。
この一連の動きは、鉄道ファンのみならず、交通やデザインに興味がある人にとってもワクワクする話題かもしれません。
今回は以上です。